東京高等裁判所 平成2年(う)447号 判決
所論は要するに,原判示常習累犯窃盗のうち一の,自動車窃盗の事実につき,被告人は単なる一時使用の意思で勤務先の自動車を運転したに過ぎず,乗り捨てにするつもりもなく,不法領得の意思はなかったから,窃盗罪にあたらないというのである。
そこで記録を調査し,当審における事実取調の結果を加えて検討するに,前記原判示一の事案は,被告人が,平成元年9月16日午前9時ころ,当時住み込み勤務していた株式会社大栄工業の牛久市内の工事現場で作業に従事中,仕事が面白くないから実家に帰ろうと急に思い立ち,前記会社の従業員輸送用の本件普通乗用自動車(ワゴン車)を無断で乗り出し,その日は牛久市から千葉市にかけてあちこち乗り回した上,17日の朝帰宅し,母に「日曜で休みなので車を借りてきた。」と嘘を言い,「すぐ会社に帰れ。」と言われて「帰る。」と答えて家を出たが,その日はこの車でパチンコに行ったり友人を訪問したりし,18日も千葉県内を乗り回した上,夕方になって「車を黙って乗り出したが,明日返す」旨会社に電話し,19日朝一旦帰宅したところ,まだ車を返してないのを知った母も驚いて会社に電話し,その上で同日午前11時過ぎころ,母に伴われて同会社に赴き,ようやく車を返還したというものであることが認められ,このように,被告人は約3日間にわたって本件車両を所有者の支配を排除して自己の支配下に置き,自己の所有物と同様に乗り回して使用していたのであり,かつ,前記の行動経過に照らすと,当初から返還の意思があったとも認め難く,むしろ,乗り出した後の処置については格別の考えもなく,ただ仕事をやめて帰ろうというだけの気持から犯行に及んだものと認めるべきであって,乗り捨てる意図まではなかったにせよ,不法領得の意思がなかったとは見られないのである。